インヒールスニーカーとは
見た目はスポーティなスニーカー、それでいて内部にかかとが高くなるインヒール構造を搭載したシューズを「インヒールスニーカー」と呼びます。
外側からはフラット厚底や通常のハイカットに見えるため、自然に身長を高く、脚を長く見せられるのが魅力。カジュアルに馴染みつつ、パンプス級のスタイルアップを狙えることから、ファッション感度の高い女性のマストアイテムとなりました。
インヒールスニーカーの誕生|元祖「Isabel Marant」
ブームの火付け役は、フランスの**Isabel Marant(イザベル・マラン)**が2011年ごろに発表した「Bekett(ベケット)」。
ミランダ・カーやビヨンセといった世界的アイコンの愛用が波及力を持ち、パパラッチショットを通じて一気に拡散しました。
Isabel Marant Bekett特徴とデザイン
デザイン:複数の大きなベルクロストラップで甲をホールドする、存在感あるルックス。
シュータン:厚みのある“ピロータン”が足首を強調しつつ、華奢見えを演出。
素材:上質なスエードをメインに採用。ラグジュアリーでありながら肩の力が抜けたムード。
影響:「ボリューミーなスニーカーの中にヒールを隠す」という新機軸を確立し、各ブランドがフォロワーを続々投入する契機になりました。
スニーカーブランドのインヒールスニーカー
イザベル・マラン発のトレンドは、NIKE/adidas/PUMAといった本家スポーツブランドへ瞬く間に飛び火。
各社は名作アーカイブをベースにインヒール化し、機能美とブランドDNAを融合させた名作を次々に生み出しました。
NIKE(ナイキ)のインヒールスニーカー
当時の中心的プレイヤー。バリエーション、限定カラー、素材違いの広さは群を抜き、街で見かけない日はないほどの人気に。
Nike Dunk Sky Hi(ダンク スカイ ハイ)
定番「ダンク」をベースにした象徴的モデル。大きなスウッシュ、丸みのあるトゥで汎用性の高いバランスが魅力。
Nike Air Revolution Sky Hi(エア レボリューション スカイ ハイ)
かかとにビジブルエアを搭載。足首のベルクロでホールド感とメカニカルな印象を両立。
Nike Air Force 1 Sky Hi(エア フォース 1 スカイ ハイ)
名作AF1の文法はそのままに、内部ウェッジでスタックを底上げ。トゥボックスの通気孔パターンが物語るクラシック性と、プラットフォーム的な存在感のバランスが魅力です。
Nike LunarElite Sky Hi(ルナエリート スカイ ハイ)
ランニング系テクノロジーを移植した近未来派。メッシュと合成素材を組み合わせ、ルナロンの波形クッショニングにより軽やかな歩行感を実現します。
adidas(アディダス)のインヒールスニーカー
“Up”シリーズとして定番モデルをインヒール化。クラシックの美学を崩さず高さをプラス。
Extaball Up(エクスタボール アップ)
ビッグタン+巨大トレフォイルが視線を奪う。バックには大胆な“adidas”ロゴを配したモデルも。
Superstar Up(スーパースター アップ)
アイコニックなシェルトゥとスリーストライプスはそのままに、インヒールでスタイルアップ。
Amberlight Up(アンバーライト アップ)
バスケット要素が強いルックス。足首の太いベルクロストラップが存在感を高めます。
Honey Up/Basket Profi Up(ハニー アップ/バスケット プロフィ アップ)
よりミニマル。Honey Upはキャンバス/レザーに金属アイレット、Basket Profi Upはスエード主体の細身シルエットでレトロに。
PUMA(プーマ)のインヒールスニーカー
流線型のフォームストライプが生むスポーティとモードのバランスが持ち味。
Puma Sky Wedge(スカイ ウェッジ)
足首に2本のベルクロを備えた認知度の高い代表作。アッパーのレイヤードが構築的。
Puma Vikky Wedge(ビッキー ウェッジ)
スエード×発色のよいカラーで可愛らしい印象。丸みのあるカジュアル寄りフォルム。
Puma Classic Wedge(クラシック ウェッジ)
名作「Suede」をそのままインヒール化。装飾を削ぎ落とした端正さとゴールドロゴの上品さが光ります。
Puma Pulse XT Wedge(パルス XT ウェッジ)
アスレジャー文脈の軽快モデル。全面メッシュで通気性に優れ、スポーティさが前面に。
Reebok(リーボック)のインヒールスニーカー
フィットネス由来の機能性に、女性らしいラインを融合。
Reebok Freestyle Hi Wedge(フリースタイル ハイ ウェッジ)
2本の細いベルクロがシグネチャー。柔らかなガーメントレザーと細身のシルエットで足に吸い付くフィット。
Reebok Alicia Keys Wedge(アリシア・キーズ コラボ)
スタッズや大胆な配色など“アクセ感覚”の装飾が魅力。
SKECHERS(スケッチャーズ)のインヒールスニーカー
「SKCH +3」として3インチ(約7.5cm)インヒールを明確に訴求。スタイルアップを前面に押し出しました。
SKCH +3 Raise Your Glass(レイズ ユア グラス)
シリーズの中心。足首の大きなベルクロでシルエットを引き締め、3インチ相当のウェッジで明快にスタイルアップします。
SKCH +3 High Rise(ハイ ライズ)
スニーカーブーツ的な丈感で、秋冬のボリュームコーデに好相性。高さを出しつつ、歩行時の安定も確保します。
Daddy’s Money(ダディーズ マネー)
ティーン〜ギャル層に向けた別ライン。ラメやスタッズ、アニマル柄などの装飾で“見せるウェッジ”を加速させました。
その他のブランドのインヒールスニーカー
スケーターブランドも独自の解釈で参戦し、日本でも高い人気に。
Converse Chuck Taylor All Star Lux(コンバース チャックテイラー オールスター ラックス)
お馴染みのトウキャップとアイレット配置を保ちつつ、内部ウェッジで身長と重心をさりげなく補正。クラシックの美点を損なわずにアップリフトします。
Supra Skytop Wedge(スープラ スカイトップ ウェッジ)
長いタンとハイカットのシルエットはそのままに、ウィメンズでウェッジ化。夜のシーンにも映えるメタリックやエナメルの展開が印象的でした。
インヒールスニーカーという軌跡|女性スニーカーに継承されるもの
インヒールスニーカーは、単なる厚底ではありません。スポーツシューズの機能美と、女性のスタイルアップ欲求を高い次元で両立させた発明でした。
元祖「Isabel Marant」のラグジュアリーで大胆なデザインを起点に、NIKEやadidasなどのスポーツブランドが各自のテクノロジーとデザインコードを注入し、スニーカー史に独自のジャンルを築いたといえます。
当時のブームのピークはひと段落しましたが、“無理せず美しく”という設計思想、努力感を見せないスタイルアップの美学は、現在の女性スニーカーブームへ確かに継承されています。