奴隷制を表すさとうきび畑

ショーの冒頭に映し出されたのは、プエルトリコのさとうきび畑でした。
さとうきび畑は、かつて先住民やアフリカ系の人々が強制労働に従事させられてきた場所であり、植民地支配と搾取の歴史を象徴しています。
この場所からショーを始めたことは、プエルトリコの過去が現在の社会構造と切り離されたものではない、というメッセージを静かに示していました。
かつて厳罰対象だったオリジナル国旗

ステージで掲げられた淡い水色のプエルトリコ国旗は、現在使われている公式デザインとは異なるものです。
これは、アメリカ統治以前に用いられていたオリジナルの配色で、独立運動と深く結びついた歴史を持っています。
かつては掲げるだけで処罰の対象となったこの旗を、世界最大級の舞台で示したこと自体が、強い象徴性を帯びていました。
本物の結婚式

パフォーマンスの途中で行われた結婚式は、演出用ではなく、実際のカップルによる本物の挙式でした。
スターではなく、地元の人々の人生の節目をショーの中心に据えたこの場面は、祝祭と日常が地続きであるラテン文化の価値観を自然に伝えていました。
TONITAさんの登場

ステージに登場したのは、ニューヨークで長年ラテン系コミュニティの拠点となってきた店を営むマリア・“トニータ”・カノさんです。
再開発やジェントリフィケーションの影響を受けながらも文化を守ってきた人物を登場させたことは、ラテン文化が単なる装飾ではなく、生活と抵抗の積み重ねであることを示していました。
次の世代へと受け渡されたトロフィー

ショーの中では、Bad Bunnyがグラミー受賞トロフィーを子どもに手渡す場面もありました。この演出は、個人の成功を強調するものというよりも、次の世代へと視線を向ける姿勢を示す一幕として受け取られています。
ラテン系コミュニティが歩んできた歴史や文化を、今を生きる世代だけで完結させるのではなく、これから先へとつないでいく。その流れの中に、この場面も静かに組み込まれていました。
実在する商店や仕事風景が映し出すラティーノの日常

ショーの中には、実在するタコス店、市場、ネイルサロンで働く女性、ドミノを楽しむ年配の男性たちなどが登場します。
これらはセットとして再現されたものではなく、実際に存在する商店や仕事の風景です。
音楽やダンスだけでは語りきれないラテン文化を、労働や日常の積み重ねとして映し出していた点も、このショーの特徴と言えるでしょう。
「SEGUIMOS AQUÍ(俺たちはまだここにいる)」に込められた意味

フィナーレで叫ばれたこの言葉は、再開発による排除に抗うスローガンです。
叫ばれた「SEGUIMOS AQUÍ」は、「俺たちはまだここにいる」という意味を持つ言葉。
土地が奪われ、言語が周縁化されても、「俺たちはどこにも行かない」。プエルトリコの人々、そしてアメリカで生きるすべてのラティーノに向けた、力強い存在証明となりました。
誰かを挑発するためではなく、自分たち自身に向けた確認の言葉として、このショーを締めくくっていました。
