Sashiko Gals|刺し子でスニーカーに物語を縫い込む女性たち

Sashiko Gals|刺し子でスニーカーに物語を縫い込む女性たち via KUON Tokyo

東北の小さな町で受け継がれてきた伝統技法「刺し子」が、いま世界のスニーカーシーンやファッション界から熱い視線を集めています。世界中のスニーカーファンが憧れる“1足20万円の一点物”が生まれ、その中心にいるのが「Sashiko Gals」。

被災地の復興から始まったプロジェクトは、ヴィンテージデニムやスニーカーをキャンバスに、ローカルな手仕事をグローバルなカルチャーへ、伝統技術とストリートカルチャーをつなぐ唯一無二の存在へと進化しています。

今回は、その成り立ちや刺し子の背景、デザインの魅力、そしてプロジェクトが目指す未来までをまとめてご紹介します。

Sashiko Galsとは

Sashiko Galsは、岩手県大槌町で震災復興の一環としてスタートした「大槌刺し子」が発展したプロジェクトです。

東日本大震災後、避難所で5人の女性が始めた手仕事がベースとなり、その後NPOや企業との協働を経て、メンズブランドKUON(クオン)を手掛けるムーンショット代表・藤原新さんとともに「サシコギャルズ」という新しい名前で再スタートしました。

震災から年月が経つにつれて仕事量の減少や職人の高齢化が課題となる中、「下請けではなく、自分たちの名前で続く仕組みをつくる」ためにブランドではなく“プロジェクト”という形で再定義されたのも大きな特徴です。

「ギャル」という名前には、40〜80代のお母さん世代の刺し子職人たちが、お菓子を持ち寄って集まり、にぎやかにおしゃべりをしながら針を進める様子が、“壁をつくらずに好きなものをまっすぐ楽しむギャル”そのものだという想いが込められています。

最初は半信半疑だった職人さんたちも、クラウドファンディングの成功やメディア取材を通して、自分たちの在り方を誇りとして受け止めるようになったと言います。

Sashiko Galsを支えるブランド「KUON」

KUON(クオン)は、「変わらない価値を、変わり続けるかたちで届ける」ことを掲げる日本のファッションブランド。運営するMOONSHOT株式会社は、ボロ(BORO)や刺し子といった日本の古い布文化に光をあて、それらを丁寧に修復・再構築しながら、現代的な服やプロダクトへ昇華させてきました。量産ではなく、一点一点と向き合うクラフトマンシップが、KUONのものづくりの土台になっています。

その延長線上にあるのが「Sashiko Gals」。岩手県大槌町の女性たちとともに2015年にスタートしたこのプロジェクトは、東日本大震災後の地域で、刺し子の技術を通じて“仕事”と“つながり”を生み出すことを目指してきました。参加するメンバーは、日々の暮らしの合間に、布やスニーカーに一針ずつ刺し子を重ねていきます。その手しごとをKUONがデザイン面・販売面で支え、プロダクトとして世界中のファンの元へ届ける——ブランドと地域の女性たちが、対等なパートナーとして一緒につくり上げています。

刺し子のリズムや糸の揺らぎは、どれひとつとして同じものがありません。KUONとSashiko Galsのプロジェクトは、そうした“人の手の痕跡”をデザインの中心に据えながら、日本のローカルな手仕事を世界のスニーカー&ファッションシーンへと接続している、今もっとも注目すべきコラボレーションのひとつと言えます。

そもそもSashiko=「刺し子」とは

via ミグラテール

「刺し子」とは、本来は寒さや破れから布を守るために生まれた、日本の生活に根ざした実用的な手仕事でのことで、東北地方で続く伝統技法です。

藍染めの布に白い木綿糸で幾何学模様を刺していくことで、生地を補強しながら美しい模様が浮かび上がるのが特徴。東北や三陸沿岸の暮らしを支えてきた、いわば“生活のためのクラフト”でした。

via ミグラテール

Sashiko_Okuaizu Museum

via 奥会津ミュージアム

近年は、古布をつぎはぎしながら刺し子を重ねた「BORO(ボロ)」が世界のデザイナーやアーティストから注目され、ミュージアムピースとして扱われることも増えています。刺し子は、布を長く大切に使い続ける知恵として、サステナビリティの観点からも再評価されているのです。

Sashiko Galsは、まさにこの「生活から生まれた技術」を、現代のファッションやスニーカーカルチャーに橋渡ししている存在と言えます。

via Fun-So-La Akihabara

Sashiko Galsのデザイン

SASHIKO GALSとは via @sashiko_gals

Sashiko Galsの魅力は、手縫いのステッチ一つひとつに宿る「人の手の温度」と、同じものが二つとない表情が生まれる“唯一無二”のデザインにあります。

均一ではないステッチの揺らぎや糸の立体感など、手仕事ならではの温かさがそのまま「世界に一足だけ」の表情として立ち上がってくるところ、刺し子がつくるわずかなズレや濃淡が、一足ごとに違う物語をまとわせてくれます。

こうした刺し子の技術は、ヴィンテージデニムやキャンバス地、スニーカーそのものをキャンバスとして、ぎっしりと細かなステッチを重ねていきます。

そして、New Balance、VANS、Converse、Mizuno、Nikeといったブランドのスニーカーに、波紋のように広がる十字刺しや、麻の葉、市松といった伝統柄が重なり、もともとのスニーカーのラインと刺し子のリズムが混ざり合せることで、まったく新しい表情へと生まれ変わります。

New Balance & SASHIKO GALS Made in U.S.A. 1300JP

via New Balance

SASHIKO GALSとは

via Sashiko Gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

「同じパターンをなぞるのではなく、その靴、その人に合わせて刺し進めていく」というプロセスを経て、オーダーごとに少しずつ表情が異なるのも人気の理由です。

また、色使いも絶妙で、藍やインディゴの深いトーンに、白や生成りの糸が映えるクラシックな組み合わせに加え、ネオンカラーの糸をアクセントのようにちりばめることで、伝統とストリートの両方を感じさせるバランスに。

ニューヨークやパリのセレクトショップでも、アートピースのようにディスプレイされているのも頷けます。

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

SASHIKO GALSとは

via @sashiko_gals

針仕事が育てるコミュニティと物語

sashiko-gals_sp via New Balance

Sashiko Galsの面白さは、完成したプロダクトだけでなく、そこに至る過程やコミュニティの在り方にもあります。

大槌のアトリエには、お母さんやおばあちゃん世代の職人たちが集まり、お菓子を囲みながら談笑し、その後は一気に集中して刺し子に向き合う。WWDのインタビューでは、藤原さんがその風景を「放課後のギャルのよう」と表現していました。

クラウドファンディングでは、サシコを施したスニーカーやぬいぐるみなど、従来の“和小物”の枠を飛び越えたリターンが用意され、多くの支援が集まりました。支援者は、単に商品を買うのではなく、「大槌の時間」と「職人たちの人生の物語」に参加する感覚を味わえる構図になっているのも特徴です。

東京クリエイティブサロンでの展示や、各地のポップアップでは、スニーカー好きの若い世代と、刺し子を続けてきたローカルの職人たちが直接会話を交わす場も生まれています。“地方発のクラフト”と“グローバルなファッションシーン”が、スニーカーをきっかけに自然につながっています。

伝統とスニーカーカルチャーをつなぐ「これから」

Sashiko Galsのプロジェクトは、まだ立ち上がって数年ですが、すでに国内外のメディアにたびたび取り上げられ、ファッション業界やスニーカーファンからも大きな注目を集めています。

実際、海外の編集者からは「ミュージアムクオリティのスニーカーアート」と評されることもあり、単なるプロダクトを超えた存在へと進化しつつあります。

刺し子というローカルな技術が、スニーカーというグローバルなアイコンと結びついたとき、それは“被災地支援”の文脈を超え、持続的なビジネスでありカルチャーとして立ち上がります。Sashiko Galsは、まさにその転換点に立つプロジェクト。

大槌のアトリエで一目一目縫われたステッチが、世界中のスニーカーヘッズやファッションラバーの足元へ届く――そのストーリー自体が、このプロジェクトのいちばんの魅力かもしれません。

SNKRGIRL編集部
SNKRGIRL編集部
神戸・東京・ニューヨークのメンバーと共にグローバルに活動する編集部メディアチーム。

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