1998年、スポーツとラグジュアリーの距離は、いまほど近くはありませんでした。そこに橋を架けたのが、JIL SANDERとPUMAのコラボレーション。
フットボールスパイク「PUMA KING」のエレガンスを極限まで研ぎ澄まし、“ラグジュアリー・スニーカー”という概念そのものを先取りしたこの試みは、やがて「KING AVANTI」へと継承され、現在のコラボ時代の原型を提示しています。
PUMAのグローバル クリエイティブ ディレクターHeico Desens (ハイコ・デゼンス)は、この系譜を「PUMAの真のアイコンのひとつ」と語っています。

なぜ1998年は特別だったのか
当時、ジル・サンダーは自身のコレクションでPUMAのサッカースパイクを用いたいと希望ていました。そこから、サッカースパイクのアッパーにランニング用のソールを組み合わせるという異色のハイブリッド案が立ち上がり、〈JIL SANDER KING〉が誕生しました。

ピッチ由来のシャープなアッパーに都市生活に適したクッショニングを与える――この構造的発想が、後のKING AVANTIへと連なる“スポーツ×ラグジュアリー”の原型になります。
当時のラグジュアリーファッションは、特にフットウェア領域で“閉じた”世界だったといいます。その中でジル・サンダーは、ボクシングブーツに恋をしたかのように柔らかな本革の感覚を持ち込み、スニーカーの“カジュアル”をハイクラスへと"翻訳"した先駆者でした。
フットボールの名作であった「PUMA KING」を土台に、ランニング由来のコンフォートを融合させ、エレガンスと機能性が共存することに成功したことで生まれたJIL SANDER KINGは、その後2001年にPUMAが確立するAVANTIの着想源となります。

ラグジュアリー×スポーツの共演が現代で実現されるその前例を打ち立てたことは、フットウェアの歴史の中で特別なこととなりました。
2025年、“原点回帰”としてのリローンチ
約30年の時を経て2025年10月14日、新クリエイティブ・ディレクター「Simone Bellotti (シモーネ・ベロッティ)」体制のJIL SANDER が PUMAと再びタッグを組み、KING AVANTIが現代に蘇りました。
舞台は、ジル サンダー銀座店と公式オンラインストア。

美しいネイビーブルーが印象的なユニセックス一色展開となる今作は、ゴールド箔の「JIL SANDER」ロゴ、白く輝くフォームストライプ、表側はPUMA、内側にJIL SANDERの刻印を配したフラップタン―― そして“静かなエレガンス”はそのままに、プレミアムレザーの質感と曲線のステッチが際立つ、伝説の復活というに相応しい作品です。

デザイン言語:ミニマリズムが“動く”
今回の復刻が“単なる再現”に留まらないのは、「KING」というスポーツの遺伝子を尊重しながら、プロポーションと質感を現代的に再構築している点にもあります。
存在感のあるフラップタンはより立体的に、ダークネイビーのプレミアムレザーは艶の陰影でミニマルな面構成を強調し、サイドフォームストライプのコントラストは鮮明で、装飾はできる限りシンプルに、素材とラインの美しさが前景化します。
先駆者の精神ともいえる“引き算で格上げする”というジル・サンダーの美学が、ピッチ由来のフォルムに呼吸する――この矛盾のない佇まいこそ、当時から現在まで通底する魅力といえます。

系譜と影響:コラボ時代の“原型”
1998年に生まれたJIL SANDER KINGは、後のKING AVANTIの確立へと続き、スポーツとラグジュアリーの境界線を変えた先駆者的名作。
現在、サンバやTotal 90などフットボールカルチャーが“足元”のトレンドを牽引していますが、その根底には、JIL SANDER × PUMAという"プロトタイプ"があるといっても過言ではないでしょう。
PUMA公式のヒストリーにも、この関係性が記され、“ラグジュアリー×スポーツ”がもたらす洗練がここから始まったその史実を、今回のコラボレーションの復活がもう一度照らし出しています。
リリース情報
30年目の“静かな革新”
このコラボレーションは、声高に新しさを叫ぶタイプの革新ではありません。
むしろ“静か”です。しかし、素材の選択、ラインの精度、ロゴの置き方――その一つひとつが、1998年のアップデートであり、いまのワードローブに差し込んでもノイズにならず、装いの温度を一段上げてくれます。
JIL SANDER×PUMAは、再び“普通を変える”一足として戻ってきているかのようです。