インヒールスニーカーとファイブフィンガー
“Ugly”から読み解く、いまのスニーカーファッションといえば、ファイブフィンガーとインヒールスニーカーでしょう。
ここ数年のスニーカートレンドを俯瞰すると、ひとつの共通項が浮かび上がります。
それは、「一見すると美しくない」「癖が強い」と感じられるデザインが、むしろ積極的に選ばれるようになっているという事実です。
いわゆる“Ugly(アグリー)”と形容されるシューズの台頭は、単なる奇抜さの競争ではありません。
そこには、従来の美意識や正解から自由になり、自分のスタンスや価値観を足元で語ろうとする、はっきりとした意志が見て取れます。
その流れの中で、再び注目を集めているのがウェッジスニーカー、そしてファイブフィンガー(五本指)シューズといった存在です。
かつて“賛否の象徴”だったインヒールスニーカー
インヒールスニーカーが広く知られるようになったのは、2010年代初頭のことでした。
当時のファッションシーンで象徴的な存在となったのが、Isabel Marant(イザベル・マラン)の「Bekett(ベケット)」。
ハイカットスニーカーの内部にウェッジヒールを仕込み、ヒールシューズの要素を外側に見せることなくスタイルアップを実現したこのデザインは、それまでのスニーカー観を大きく揺さぶりました。セレブリティやファッション感度の高い層に支持され、一時代を象徴するシューズとして強い印象を残します。
一方で、その独特な立ち位置は評価を二分しました。
スニーカーなのか、ヒールなのか。スポーティなのか、フェミニンなのか。
明確なカテゴリーに収まらないこと自体が、違和感として受け取られた側面もあったようですし、単にデザインが好きではないと感じた人もいたようでした。
ただ、このシルエットが完全に過去のものになったわけではなく、2021年にイザベル・マランが発表した「Balskee」をはじめ、近年ではOttolingerなどの前衛的ブランドがランウェイで再解釈を試みるなど、インヒールスニーカーは断続的にアップデートされ続けてきました。
一度は距離を置かれながらも、時代の感性が追いつくのを待っていた——
そう捉える方が、いまの再評価の流れにはふさわしいのかもしれません。
ファイブフィンガーが示した、美意識の転換
同時期に注目されているのが、Vibram FiveFingersに代表されるファイブトゥ(五本指)シューズです。
足の形をそのまま露わにするようなこのデザインは、機能性の象徴であると同時に、視覚的には強烈な“違和感”を伴うと感じる人もいるようですが、それでもなお、ロンドンをはじめとする感度の高いストリートや韓国のセレブやインフルエンサーの間では、ファイブフィンガーをファッションとして履きこなす人々が増えています。
ミニマルで身体性を強調する構造そのものが、いまの価値観と強く結びついているのかもしれません。
ここで注目すべきは、これらが「目立つため」や「奇をてらうため」に選ばれているわけではなく、履き心地、身体との関係性、ユニークな見た目、スタイルとの緊張感――そうした「異種」要素すべてを含めて、“選ばれている”という点にあります。
“Ugly”は、感性の成熟を示しているのか
ロンドンのストリートで見られるタビシューズ、ビクトリアンブーツ、ウッドクロッグ、ファー付きシューズ、極端に尖ったヒール。これらに共通するのは、「万人にとっての正解から距離を取っている」ことでした。
ウェッジスニーカーやファイブフィンガーが再び支持されているのも、この流れと無関係ではありません。
美しいかどうかではなく、どういう文脈で履くか、どういう姿勢を示すかが重視される時代へと、確実にシフトしているようでもあります。
“ダサい”から“読み解く存在”へ
ウェッジスニーカーも、ファイブフィンガーも、アグリーシューズ全般も。
それらはもはや「避けるべき存在」ではありません。
どう履くか、どんな文脈で取り入れるかによって、強いメッセージ性を持つアイテムへと変わっています。
ファッションが再び“解釈する楽しさ”を取り戻している今、その象徴として、これらのシューズが浮上してきたのは必然と言えるでしょう。
美しくないからこそ、面白い。
そして、その違和感を受け止められる感性こそが、いまのスニーカーファッションをかたちづくっています。