スニーカーの話なのに、真っ先に語ったのは“店の空気”でした。
Starcowでビジュアルマーチャンダイジング、ウィンドウディスプレイ、マーケティングを担うKarine (カリン)。
6年にわたり、店の世界観をつくる彼女が愛してやまないのは、真っ白で均一な“今っぽいミニマル”とは別の美学——「好き」が積み重なって生まれるアイデンティティ。
1. 30年以上見てきたStarcowに、働く側として戻ってきた
KarineはStarcowを「30年以上前から知っている」そう。
ずっと好きだった店がパリに出店して、そこで働くことになった彼女が惹かれたのは、ショップに宿る“DA"(Direction Artistique=アートディレクション)という仕事の濃さでした。
「無機質じゃない」という言葉の裏には、均一化が進むリテールへの静かな違和感がある。
大企業による量販店は、白く清潔で完成されすぎた空間。
Karineが求めているのはその対極——人の好みやカルチャーがにじむ“生きた”店です。
まず、私はこの会社が“この会社らしいこと”が好き。この店にあるDAの要素が好きで、最近の他の店にありがちな「無機質さ」がない。ちゃんとアイデンティティがあって、ビジョンがある。Starcowは独自の方向性を持っていると思う。

2. マルチブランドな魅力は「統一感」よりも「好きの集積」
Starcowはマルチブランドであることも特徴のひとつ。
Karineはそこに「必ずしも整いすぎない良さ」があると言います。
家具も、プロダクトも、何かひとつのルールに揃えなくていい。
大事なのは“好きなものを選ぶ”という姿勢で、その積み重ねが結果として店の個性になります。
3. “推しの一足”より、色と素材に反応する
「一番好きなスニーカーは?」という編集部おきまりの質問へのKarineの答えは潔く、
「持っている靴は全部好き!」
といいます。
ブランド名ではなく、カラーパレットと素材で靴を見るKarine。
昔は選択肢が少なく「Nike」と言えた。でも今は、まだ先頭に立っていないブランドも含めて選択肢が広がっています。
流行を追うより色と質感に正直でいたい——それがKarineのスタンス。
目立たないけど面白いブランドも増えていて、私は流行に乗るより、そういうところに惹かれます。色と素材により敏感ですね。

4.スニーカーしか履かない理由は反骨心かも
Karineはいま、ほとんどスニーカーしか持っていないそう。いわゆる“革靴”は、数えるほどしかないといいます。その背景にあるのは、子どもの頃の記憶。
「スニーカーはスポーツ用」「きちんとするなら革靴」——親世代の価値観として、それが当たり前だった。だからKarineも、少し無理をしてでも“革靴を履くこと”を求められてきたのだとか。
でも彼女は笑いながら、こう続ける。
だからこそ、いざ「もう履かなくていい」と自分で選べるようになった瞬間から、二度と戻らなかった。
スニーカーは、Karineにとってただの靴ではない。
「自由な自分」を象徴する毎日のスタンダードになっているのです。

5. “今日の4000歩”がスニーカーを決める日も
Karineのスタイリング基準は、ムードだけでは終わりません。
「その日何をするか」で選ぶという、実に現実的な判断が入るようです。
たぶん、その日の予定次第ね。ソールが硬すぎて4,000歩歩くだろうって日には向かない靴もあるし…。逆に今日は“マラソンの日”っていう日もある(笑)。コーデに合うとしても、快適じゃないなら選ばないこともあります。
コーデに合っても快適じゃないなら選ばない日もあるほど、スニーカーはKarineの日常に根づいたいま、“映え”よりも“ライフスタイル”にフィットしています。
6. 女性は"コード"に縛られない。だから前衛的になれる
Karineが語る「女性とスニーカー」は、過去と現在のコントラストが強いようです。
かつては女性サイズが少なく、キッズものを選ぶしかなかった。作りが違うから、プロダクトとしても妥協を強いられました。
でも今、スニーカーは“みんなの靴”になった。
そしてKarineは言います。男性には、バギーならこの幅、というような「コード=暗黙のルール」がある。でも女性はそこに縛られていない。快適さを選び、"コード"から自由でいられる。その自由さが、むしろ前衛性になったりもする。
昔は、私たちの意見はあまり聞かれなかった。そもそも女性の小さいサイズがなくて、キッズ売り場で買うしかなかったんです。子ども用は大人の足型に合わせた作りじゃないから、プロダクトとして別物になってしまうのに。
でも今はスニーカーが“みんなの靴”になった。
男の子には男の子の暗黙のルールがある。たとえばバギーを履くなら、それに合う“幅のある靴”が必要、みたいな。でも私たち女性はそこまでコードに縛られない。もっと快適さを重視するし、もっと前衛的。
さらに、女性の視点は男性の暗黙のルールを広げる力にもなる。
私たちは、男性が自分たちで作ってきたコードに対して、視野を広げる存在になれると思うの。それに今は、女性市場が大きいことに彼らも気づいた。私たちはもっと“自分を肯定して”生きているのかもしれないわね。ライフスタイルを通して、こちらの意思を表現している。たとえば、私はYves Saint Laurentを着ていてもスニーカーを履くの。服はハイブランドでドレスアップしても、スニーカーは服と同じ価値基準で評価しない。そこが面白いと思うわ。
「Yves Saint Laurentを着ていてもスニーカー」という言葉が象徴するのは、ラグジュアリーとスニーカーの関係を“上下”で見ない姿勢。
服はドレスアップしても、足元は自分の生活と感覚で決める——そのバランスが新しく感じます。

Karineの願いはシンプル|Starcowをもっと増やしたい
次のプロジェクトは?と聞かれたKarineに、迷いはありません。
「Starcowをもっと増やしたい」
空間をつくる人が思い描く未来は、いつも具体的。“白くて無機質”ではない、カルチャーがにじむ場所を増やすことが願いだというKarine。
彼女の仕事は、スニーカーを売るためだけのVMDではなく、スニーカーが生きる“景色”をつくること。スニーカーが“その人の生活”として存在できる景色を、空間ごとデザインしているのです。